最高裁判所第一小法廷 昭和24年(オ)333号 判決
論旨は、原審が本件農地の賃貸借の解約の合意について当事者から宮野目村農地委員会に対し農地調整法九条三項の通知をしたか、否か、並びにその通知の有無が本件合意解約に及ぼす法律上の効力を何等審理しなかつたことは法律の適用を誤つた違法があるというのである。しかし本件農地の賃貸借の解約の合意がなされた昭和二〇年一〇月末当時に施行されていた農地調整法九条三項の通知がなされたか否かは本件農地の賃貸借の合意解約の効力に何等の影響を及ぼさないものであると解するのが相当であつて、従つて原審は本件解約に関する右通知の有無及びその通知の有無が本件賃貸借の解約に及ぼす法律上の効果につき、特にこの点について原審において上告人の主張のない以上、判示する必要はない。それ故論旨は理由がない。
同第二点について。
論旨は原審が被上告人及びその妻の証言を採用しながら村農地委員会の会長及び書記の証言を採用しないのみならず甲第一号証(訴願裁決書)を何等の理由を示すことなく排斥したのは、いずれも経験則違反であり、又行政事件訴訟特例法九条による職権調査をしなかつたのは違法であるというが原判決は「他に前記認定を左右するに足る証拠はない」として甲一号証を排斥しているばかりでなく、論旨は、結局原審の裁量に属する証拠の取捨判断を非難するに帰し、また行政事件訴訟特例法九条は、証拠につき充分の心証を得られない場合、職権で、証拠を調べることのできる旨を規定したものであつて、原審が証拠につき十分の心証を得られる以上、職権によつて更に証拠を調べる必要はないのである。それ故論旨はいずれも理由がない。
同第三点について。
論旨は本件農地の賃貸人は被上告人であつてその妻ではないから被上告人の妻と小作人との間に合意による有効な本件農地の賃貸借の解約の成立しうるためには、右妻にその権限がなければならないのであるが、右妻は本件合意解約の当事者資格もなく、代理権も明かでないのにも拘らず、原審が右妻と小作人との間に本件合意解約の成立したものと認定したのは、法律の解釈を誤つた違法があるというのである。しかし原判決挙示の証拠である原審における被上告人本人訊問に対する供述によれば小作人駿河善松と本件農地の賃貸借の解約の話をしたのは被上告人及びその妻との三人であつたことが認められるし、原判決が所論の判示事実を認定したのは所論の被上告人の妻の証言だけによつたものではなく、その他に被上告人本人の第一審と原審における本人訊問の結果並びに第一審証人阿部喜志の証言その他書証等のいろいろの証拠によつたものであることは判文上明らかなところであるから原判決には所論の違法は存しない。
同第四点について。
論旨は原判決は本件農地の賃貸借解約の合意の日時内容につき漠然たる認定判示をしているのであつて、かかる認定判示は本件農地の賃貸借の合意解約を認定するについて経験則上判断究明すべき事実を判断究明せず従つて採証の法則に違反したものであるというのである。しかし本訴において農地の賃貸借の合意解約について確定すべき必要の事実は合意の対象となつている農地がいずれであるか、その合意並びに合意の履行された時期が昭和二〇年一一月二三日以前であるか否かであつて、所論のような、合意当時小作料の未払の存否とか離作に因る賠償及び暗渠施設費の補償等の事実は本件判決の結果に影響なきものであり、従つて原審がこれらを確定するの要がないものといわなければならぬ。原判決は本件農地賃貸借の解約の合意の対象たる農地のいずれであるかということ、解約の合意並びにその履行の各時期がいずれも昭和二〇年一一月二三日以前であることを確定判示しているのであるから、本件農地の賃貸借の合意解約についての判示として欠くる所はなく、所論は理由がない。
同第五点について。
所論は被上告人は司法書士を職業とする者で耕作の業務を営むものではなく、また本件農地は自作農創設特別措置法二条の自作地でないのにも拘らず原判決が被上告人は自作農であり本件農地は自作地であると認定したのは違法であるというが所論の法条に耕作の業務を営むとは必ずしも耕作の業務を専業とするに限る趣旨ではないのみならず、耕作の結果が経済的に直接帰属する経営主の義と解するのが相当であるから被上告人が昭和二〇年一〇月末本件農地の返還を受け二一年度以降これを耕作している判示事実に基ずき原審が被上告人を自作農と認定し、本件農地を被上告人の自作地と認定したのは相当であつて、論旨は理由がない。
上告代理人弁護士石川金次郎、伊藤俊郎の上告理由第一点について。
論旨(一)は瀬川メキの証言によるも、また本件農地所在の地方では一〇月末頃は未だ田の「はせ」の取片付を終らぬのが普通であるから、田の耕作者が仮令かゝる時期にその田を地主に返還することを約しても耕作者はこの「はせ」を片付けてしまうまでは少くとも従前通りその田の占有を継続する意思を有し且つ現実に占有の継続をしているものと認めるのが通常の事態に合すると考えられる点からも、原審がこれ等の点を審究しないで単にその挙示する証拠だけで本件農地に対する賃貸借契約の合意解約の時期において本件農地の占有の移転が行われたものと認定したのは証拠によらずして事実を認定した違法又は理由不備の違法をあえてしたものであるというのである。しかし原判決挙示の証拠を総合するときは所論の原判示事実の認定はこれを肯認することができるのであつて、論旨は結局原審のなした事実認定を非難するに帰し、採用できない。
論旨(二)の(イ)は原判決は本件農地の賃貸借の合意解約は所有者たる被上告人から解約の申入をなし小作人駿河善松において何等異議なかつた結果成立したものである旨判示しているがその挙示する証拠である原審の証人瀬川メキの証言と被上告人の原審における本人訊問に対する供述とが矛盾しているのにも拘らずこれらの証拠によつては原判示事実を認定した原判決には理由齟齬の違法があるというのであるが、多数の証拠によつて事実を認定する場合にその証拠相互の間に多少矛盾する部分のあることは必ずしも異とするに足らないことがらであつて、かゝる場合に矛盾する部分のいずれを採りいずれを捨てて事実を認定するかは事実審たる原裁判所の裁量に属するところであつて原判決には所論の違法は認められない。
論旨(二)の(ロ)は被上告人からの本件農地の賃貸借の解約申入は農地改革の直前のことであり、殊に小作人駿河善松は多大の労費を投じて本件農地の客土工事や暗渠排水工事を施行している事実があるのであるから、小作人駿河善松において被上告人からの解約の申入を唯々諾々として承認する筈がないといわなければならぬのにこれ等の点について原審が審理判断することなく本件農地の賃貸借解約の合意の成立を認定したのは審理不尽乃至採証法則違反であるというが、所論の事情は小作人駿河善松が被上告人からの解約の申入に同意することを法律上不可能とする事由とは認められないのみならず原判示によれば原審は本件農地の返還を小作人駿河善松から被上告人に昭和一六年頃から再三申出た事実をも認定しているのであつて、原判決の挙示する証拠によれば、小作人駿河善松が被上告人の解約の申入を承認し本件農地を返還した事実を肯認することができる。されば原判決には所論の違法は認められない。
同第二点について。
論旨の理由のないことは代理人石川金次郎の上告理由第一点について説明したとおりである。
よつて民訴四〇一条、九五条、八九条に従い裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。
(裁判官 斎藤悠輔 岩松三郎 裁判長裁判官沢田竹治郎は退官につき署名押印することができない。裁判官 斎藤悠輔)
上告代理人弁護士石川金次郎、同伊藤俊郎の上告理由
一、原判決は本件係争田畑は被上告人の所有であつて、被上告人はこれを訴外駿河善松に賃貸し同人をして小作させていたが、昭和二十年十月末合意解約の上右田畑の返還を受け、昭和二十一年度から同人において耕作してきたものであるという被上告人の主張について「成立に争のない甲第二号証の一、二、第五号証、当審における控訴人本人訊問の結果により成立を認める同第六号証原審証人阿部喜松原審及び当審証人瀬川メキの各証言原審及び当審における控訴本人訊問の結果、原審及び当審証人駿河善松の証言の一部」を綜合し、被上告人は昭和二十年になつて本件田畑を自分方で耕作してもよいと思ひ駿河善松にこれを話した結果、善松においても何等異議なく昭和二十年十月末右田畑に対する賃貸借契約を合意解約してこれを被上告人に返還した事実を認定し、「原審及び当審証人駿河善松の証言中、右認定に反する部分及び原審証人畠山政右衛門、当審証人駿河庄太郎の各証言」を排斥し、被上告人の右主張を採用している。
(一) これを記録に徴するに、証人瀬川メキは、第一審において「昭和十九年頃(中略)当時は空襲等があり多忙でありましたので同二十年十月末まで小作して貰い二十年度の収穫が終つた後返して貰いました」と述べ第二審において「小作人の方では田が悪く耕作しても利益にならないから返えすというので私の方では来年から耕作することにして返還を受けたのである」と述べ又被上告人瀬川市助本人も第一、二審において右と同様本件田畑を「返還して貰つた」と述べている。然しながらこれ等の証言は同証人等が通俗的に「田を返して貰つた」と述べたもの、即ち昭和二十年十月末頃被上告人と駿河善松との間において本件田畑に対する賃貸借契約の合意解約成立の事実を述べたものであつて、同時に被上告人において右解約にかゝる田畑の占有の引渡を受け終つたことまでも意識的に包含せしめて述べたものでない。このことは前後の字句、この言葉の通俗的用例等に照らし明らかである、しかも当地方農村においては、公知の通り十月末頃には未だ田の「はせ」の取片づけも済まぬ状態であり、従つて田の耕作者が仮令かゝる時期にその農地を地主に返還することを約してもこの「はせ」の取片づけ等の終るまでは少くとも従前の通り右農地に対する占有を継続し且つその占有を継続する意思を有つているものと認めるのが通常の事態に合する考察であると考へられるから、原裁判所はこれ等の点を審究し適確なる証拠によつて本件農地の占有移転の時期を確定すべきに拘らず漫然前記証拠によつて本件農地に対する賃貸借契約の合意解約の時期において同時にその占有の移転が行われたものと認定したのは証拠によらずして事実を認定したか或は理由不備の不法あるものである。
(二) 本件田畑に対する合意解約はその所有者たる被上告人の解約申入れに対し小作人駿河善松において何等異議がなかつた結果成立したものであることは、前記各証拠により原判決の認定するところである。
(イ) この点に関し、証人瀬川メキは第二審において「昭和二十年度の稲作収穫後十月半頃私が耕作するからと云つて駿河善松より本件農地を返して貰つたのです、右のことは私と駿河善松本人との話合で決めたのでした」
「これは駿河善松本人が私の家に来て私と話合の結果決めたのでした」と述べ、被上告人瀬川市助本人は第二審において「昭和二十年になり私の方で耕作してもよいと思ひ善松に話しましたところ同人から何等の異議がなく全部返還すると云うので同年十月中旬頃から同月末頃までの間に三筆全部返還を受けたのです」と述べている。即ち右解約の申入をしたのは証人瀬川メキの証言に依れば同人であり被上告人瀬川市助によれば同人である、同一解約申入についてかゝることはあり得べからざることで、原判決は単に内容の相異る証拠の種目を羅列したに止まり、此等の証拠を綜合しても前記のような原判決の認定に到達することが出来ぬ、この点において原判決は理由そごの不法がある。
(ロ) 加之、農地の耕作者が画期的農地改革の行われる直前においてこれを知りながらその所有者の解約申入に対し唯々諾々何等異議を止めぬというが如きことはその間に特別の事情のない限りたやすく首肯し難いところであり、殊に被上告人の第二審における供述によつて認め得る駿河善松が昭和十二年頃及び昭和十八年頃の二回に亘り本件農地について多大の労力と費用を投じて客土工事及び暗渠排水工事を施行した事実を考慮するときはこのことは尚更といわなければならない。然るに原判決が右特別の事情について何等審理判断することなく、たやすく本件農地に対する賃貸借契約解約の事実を認定したのは審理不尽乃至採証の法則に違反した不法がある。
二、原判決は前記認定に基き本件農地は昭和二十年十一月二十三日当時被上告人瀬川市助の小作地でなくその自作地であると認め、之を対象とした宮野目村農地委員会の買収計画を違法と認めている。これによれば原判決は同年十月末頃なされた本件農地の賃貸借の解約が有効に成立したものと認めたこと明らかである。然るに農地調整法第九条第三項は農地の賃貸借の当事者が賃貸借の解約をするときは予め市町村農地委員会に通知することを要するものと規定し、この規定の解釈上予めこの通知がなされない限り右賃貸借の解約は法律上その効力を生じないものと認めるのが相当である、原判決挙示の証拠を調査するのに被上告人等において本件農地の賃貸借の解約に当り、予め宮野目村農地委員会に通知した事跡はこれを認定せしめる資料がない。従つて原判決はこの点において審理不尽乃至法律の解釈適用を誤つた不法がある。
以上の理由によつて原判決は破毀せらるべきものである。
上告代理人弁護士石川金次郎の上告理由
第一点
原審判決は「昭和二十年十月末本件田畑の賃貸借契約に付合意解約が成立し之を被上告人に於て返還をうけたものである」と認定しているが、法律の適用を誤つた違法があるといわなければならない。
昭和二十年十月本件賃貸借契約に付合意解約があつたと原審判決の認定した当時施行せられていた農地調整法第九条第三項によれば、農地の賃貸借の当事者が賃貸借の解約を為す場合は予め市町村農地委員会に通知しなければならないと規定してある。この規定は同法第十五条と対照すれば農地関係の調整を目的とするものであることが明かであつて、当事者間に仮に合意があつたとしても当時の社会的な関係から任意の解約に対して制約を加えているものとみなければならない。
然るに原審判決は当時の農地調整法を無視し同法第九条第三項の通知の有無及びこの通知の有無が法律上如何なる効果を発生するかについて何等審理することなく一顧をも与えなかつたことは違法の判決であるといわなければならない。即ち農地に関する賃貸借契約の解約若は更新の場合その効果に影響を及ぼす法律の存在を無視して適用しなかつたことは違法である。
第二点
原審判決は証拠の採用に当つて経験則に違反した違法がある。証拠力の判定は裁判官の自由ではあるが然しそれは正しい経験則の上に立たなければならないことは法律上の要請である。即ち裁判官は常に健全な裁量をしなければならないのである。
然るに原審判決は地主側である被上告人及びその妻メキの証言を採用し本件農地に付ての賃貸借の合意解約の事実を認めているが、これ等の証人の陳述は自己の主張自己の利益を守る為に為されたであろう証言であることは当然推測しなければならないのである。
これに反し原審判決が一顧だに払わなかつた――第一審判決と全く反対の観方をしている――村農地委員会の会長畠山政右衛門及び書記駿河庄太郎の証言は第三者として特に農地の買収売渡に当つては充分の調査と責任とを負うているもので従つて一応の信用を与えなければならないのが条理上当然である。これを排斥する為には排斥するの確固たる証拠を必要とするものであるに拘らず原審判決にこれをみるべきものがなかつたことは経験則に反したものといわなければならない。
のみならず甲第一号証(訴願裁決書)は当該行政庁が充分の調査と注意と責任を以て作成したものであることは経験則により明かであるといわなければならない。併も原審はこれを排斥するに当つても何等その理由を示すところなく漫然これを為したことは全く経験則に反した違法の採証であると信ずる。
行政事件訴訟特例法第九条によれば裁判所は職権証拠調を為すことができるのであつて、農地解放の精神、目的を考えるならば甲第一号証を排斥するに当つては排斥すべき理由を明かにする為に与えられた法律的権限によつて確信を得たことを示すことが法律上当然の要求であると信ずるが、これを怠つて為さなかつたことは違法があるといわなければならない。
第三点
原審判決が本件農地に付賃貸借の合意解約と認定した資料は、証人瀬川メキが「私と駿河善松との話合で決めました」「駿河善松本人は私のところに来て私と話合の結果決めたのでした」と反覆陳述している証言――原審瀬川メキの証言参照――を有力な資料としたのであろう。
被上告人の妻であるメキの証言によつても小作人駿河善松の証言によつても善松と被上告人本人との交渉話合した事実は全然表われていない。――被上告人は私の妻と共に善松に会つたかの如き証言をしているけれどもこの証言を採用するに当つては前記証人の陳述と対比考覈するときにわかに信じ得ないものがある――
而してメキは本件賃貸借の当事者ではない。従つてメキと小作人善松との間に賃貸借の合意解約契約が為し得るものではなく、合意解約契約が有効な為にはメキに其の権限がなければならないのである。
合意解約契約の当事者資格もなく代理権をも明かでないメキと小作人との間に合意解約という法律行為が成立したと認定した原審判決は法律の解釈を誤つた違法があるといわなければならない。
第四点
農地の賃貸借契約の解除に当つては果して真正に法律上の手続が為されたか、又合意解約に当つては当事者間特に耕作者である小作人が自由な立場に於て真意に為されたか否かを吟味しかつその合意解約の日時、内容についても明かな心証を得なければならないと信ずる。
例えば合意解約があつたとしても直ちに解約し直ちに目的農地を引渡すというのであるか、或は翌春の耕作期をまつて解約の効果を発生せしめ其の時に農地を引渡す、それ迄に農地の上に存した設備等を片付けるという趣旨なのか、これ等の事実を明かにした上でなければ合意解約の事実を認定し得ないものであるし、又この様な吟味をして農地の賃貸借契約の存否を明かにすべきことは農地関係法の要請する法律上の重要な点であることを考えなければならないのに拘らず、原審判決は昭和二十年十月末頃合意解約為されたものであると認定し解約の時も漠然、その解約契約の内容も漠然としている。
若し健全な経験則の採用が裁判所にあつたならば
(1) 当時は農地改革の世評がさかんで村々に於ても耕作者が農地を入手できるという事は一般の常識になつていたし、地主は如何にしてか農地を取上げようと画策する者が多かつた。従つて小作人は簡単に農地を手放さない状況にあつたのである。
(2) 原審が合意解約があつたと認定した当時は未だその年の小作料が支払になつていなかつたことは小作人善松の証言により明かであり、又田には稲架はせが未だ取片付けずにあつたろうことが推測される。若しも合意解約が成立したとするならば離作による賠償の問題が起りその未払小作料をこれに充てるかどうかの問題も起るべきであつたと観るのが当然ではないか。
(3) 記録に明かな如く小作人善松は暗渠施設の為に犠牲を本件田に払つているが、若し合意解約するならば当然この小作人善松の支払つた損失の補償に対して問題が起るべきであり之が解決すべきは当然である――乙第三号証参照。
以上の事実は経験則上合意解約の認定へ到達する為には充分に判断究明しなければならない資料であるのに拘らず、これを全然無視したことは法律の要請する経験則に則した採証の法則に違反したものといわなければならない。
第五点
原審判決は「昭和二十年十一月二十三日現在に於ては所有者である被上告人の小作地ではなくその自作地であると認められるから……」と認定しているが、自作地とは自作農創設特別措置法によれば「耕作の業務を営む者が所有権に基きその業務の目的に供している農地」と規定している。けだし自作地の概念を示して充分なものと思料する。
本件に於て果して被上告人は自作農であるか記録により明かの如くその職業は司法書士である。
又昭和二十年十一月二十三日現在に於て本件農地は果して自作地であるのか、仮に原審認定の如く本件農地は地主に取上げられたとしてもその事実のみを以てしては農地は自作地としての要件を具備しないのである。地主は都合よくば小作料物納等の密約を結び他に貸すかも知れない。或はその為に自己が耕作するかの如き口実で取上げることなしとはしない。本件に於ては昭和二十年十一月二十三日現在地主である被上告人が自己の業務として本件農地を耕作しておつたという事実がないのであるから、仮に前小作人との間に小作契約がなかつたとしても自作地とは認定し得ないのである。(越えて昭和二十一年に至り耕作の仕事が始つた時ならば或は被上告人の自作地と言えたであろうとも)即ち基準時に於ては何人が耕作する小作地であつたかは定め得ないとしても、小作地であつたという事実は明かなのである。
それを原審判決は漫然と被上告人は自作農であり本件農地は自作地であると認定したことは法律違反の認定といわなければならない。
訴願の裁決が「本件農地は昭和二十年十一月二十三日現在に於て自作地ではない、小作地である」と認定したのは当然であり、第一審判決もしかく認定したことは真実の認定であるといわなければならないに拘らず、原審判決がこれと反対の認定をしたことは不当違法であると信ずる。
以上